ときめき第22号 1998年12月 発行/東金市教育委員会 より転載

をつなぐ見えない線に魅せられ

JG1VBD 石井文義

東金アマチュア無線クラブ(YSY) の会長を務める石井さん。キャリア26年でそろえた機材の総費用は、数百万になるという。20数年前の、マニアには懐かしいものから、最新の機器まで。所狭しと積まれた石井さんの「城」で、お気に入りの無線(ハム)についてお話を伺いました。

ハムに興味がある人じゃないと入れないという石井さんの部屋は、とにかく無線機だらけ。関東はおろか、北は北海道、南は沖縄、果てはオーストラリアまで、様々な言葉が無線機から溢れてくる。

 「遠洋漁業に出ている人達に、『桜が咲いたよ』とか、『巨人が勝ったよ』とか教えてあげるんです。」


 「無線は自由なもの。好きなようにお喋りができるんです。今流行のインターネットも、無線の延長みたいなものだし。」 車載のものを含め、16台(!)の無線機を自由自在に操る石井さん。始めたのは昭和49年の事。きっかけば 「息子が中学生になって、だんだん親子の会話が減ってきてね。そこで親子共通の趣味を持とうと思って、2人そろって免許を取ったんです。」

 世のお父さんを悩ませる年頃の子供との付き合い方の見本でばないか。

 「もっとも、自分のほうがすっかりはまってしまって:・ (笑)」

 早速機械を購入し(この機械は今甥に貸しているとのこと)翌年には、同じ趣味を持つ人に声を掛けて東金アマチュア無線クラブ(YSY)を結成したというから、バイタリティは計り知れない。

 「アンテナのある家に突然お邪魔して『いいアンテナ使ってますねえ』とかいって無線の話を持ち掛けるんです。すると大抵の人は話に乗ってくる。こうして会員を増やしていったんです(笑)」 
熱心さの甲斐あってか、今では会員百十八名の大所帯となり、ご本人は会長としてクラブをまとめている。
 高校生のころから、近所や知り合いのラジオの修理を無償で引き受けたり、ジャンク市に通い詰めていた石井さんにとって、機械の知識を必要とするハムは、まさにびったりの趣味。いまではご自分で「ハムを取ったらただの人」と言うくらいはまり込んでいる。

 ハムの魅力は何といっても、いろんな人と平等に話せることだという。

 「小さな子供から会社の社長まで、この世界では対等なんです。私もこの前、小学3年生の子と話をしましたよ。」

 ボランティア活動にも積極的な石井さん。市の駅伝大会や防災訓練など、YSYの協力を仰ぐ行事は数多い。御自身でもシルバー人材センターに登録するなど、ボランティアに対する意識ば高い。

 「自閉症の子や障害を持つ人達も、免許さえとれば自由に会話ができる。可能性は無限に広がっているんです。」

 最近は携帯電話の普及もあり、ハムは少し下火になってきているとか。でも、ハムを使ってこれからも行政の手助けをしたいという石井さん。

 「災害が起こったときに必ず役立つと思うんです。携帯は1対1のものだけど、これは広範囲の人に伝えることができるからね」

 毎朝欠かさず、クラブのメンバーにハムを通して「気をつけて」と声を掛けるという。
気配りを忘れない事も仲間から慕われる一因であろう。

 「これからハム仲間に呼ばれて本埜村までいくんですよ」

 秋の静かな雨音と、たくさんの言葉が交じり合う心地好い喧騒の中で、ハムの達人は、さも楽しそうにそう言って笑った。

 

           文・布留川秀樹